Sumika

下弦の月 (kagen no tsuki)

Sumika


おはよう
テレビの中のキャスターは言うんだよ
ぼくはまだ三十路

きみはどう
髪を解かして
朝の知らせを
素直に聞いているの

つながれて
溶け合って
無瀬るように
弱れていた

時計の針
六時を指し
明るみ出した空に
ふたりで愚痴
こぼしていた

このまま夜のまま
朝が来ないように布団をして
抱き合って
いだきあって
時計を睨んでは
子供のようにまた
だだをこねるよ

このまま夜のまま
朝が来ないように布団をして
ああでもない
こうでもない
いいふたりで語った
カーテンの隙間から
浮かぶ
影の月

おはよう
挨拶の手よりもしなやか
きみのその寝癖に

おだやかな気持ちで
やれやれ
と水を手につけて
手ぐしで解かした

ああ
何度悔やんだって
何度教えんだって
何度見返したって
変わらない今日を

眠らせられない
終わらせられない
ぼくだけが
ぼくだけがまだ

それでも朝は来て
放てた髪をひとり解かして
同じような寝癖をつけていた
人のこと
思い出して
また寝かしつけている

あの日見た月のような
放てた髪は今どこにいて
ああでもない
こうでもない
いいあい誰の中
腕の中
胸の中
いだきあい
影の月の下